hdnprgの日記

アンドロイド、ヒューマノイドを扱った小説を、思いつき次第公開します。諸事情により、他サイトでも投稿中@hdn_prg

極熱に散る桜(上)【メカバレ・残虐な表現あり】

残酷な表現(メカバレ表現を含む)があります。
また、このお話には男性しか出ません。
それでは、どうぞ。

 

<直也>
夕方、開店前の店内を掃除。俺は手を止め、店を見渡す。
俺は、この店のトップホスト。夜のひととき、花開くような最高の夢を見せている。
でも、あの日以来、俺にとってこの店は針のむしろの上のようだ。
ああ、しかし、俺は店を辞められない。

バックヤードの扉が開く。フロアに出てきたのは、すっと線が通った青年。俺を見つけると、ふわりと笑う。あいつが笑うと、あたりがパッと明るくなったように見える。先月、オーナーが買ったアンドロイドで、桜という。
俺は、あいつに駆け寄りたくなるのを必死にこらえて、目を逸らす。オーナーがレジ台に立っていた。暗い目を、じっとこちらに向けている。
俺とオーナーは、ホストと雇い主以上の仲だった。桜が来るまでは。オーナーは、オーナーを捨てた俺と、俺を奪った桜を深く憎んでいる。俺が店を辞めれば、桜はすぐにでもスクラップにされるだろう。
ああ、でも、俺にとって、この店の空気は黒く重い泥のようだ。居心地が悪い。俺の売り上げが下がってきている。ヤバイぞ。

<桜>
直也、どうしたのかな?
最近、ずっと素っ気ないし、目を合わせてくれない。なにか気に障る事したかな?


<直也>
どんよりと曇ったある日、店に出ると、オーナーが声をかけてきた。目を黒く光らせ、満面の笑みを浮かべている。俺は背筋に冷たいものを感じた。
オーナーは、桜の頭部にヒーターを仕込んだ、と言ってきた。俺の行動次第で、遠隔起動させるつもりらしい。
オーナーが見せた、スマホの画面。地味なアイコン。タンタンっと叩けば、桜は壊れる。

桜、お願いだから話しかけないでくれ。悲しい顔しないでくれ。お前の為なんだ!


<直也>
桜の頭にヒーターが埋め込まれてから一週間。
桜の廃棄日を通告されてしまった。明日の明け方にヒーターの電源が入るそうだ。
閉店からは一緒に過ごして良いと言われた。
壊れた桜の、廃棄処理をすることが条件だ。俺は受け入れるしかなかった。

<桜>
今日は直也の家に泊まる。久しぶりだ。楽しみだなぁ。
そんでもって、この頃機嫌が悪かった直也が、今日は暇さえあれば僕に付きっきり。
まるで別人みたいだ。でも、なんで泣いてるの?

 

<桜>
店が閉まった後、アフターを断って直也のアパートに遊びに行った。

直也は、僕が、今日の朝までしか生きられないと教えてくれた。

その後は、でも、特別なことは何もしなかった。
前に遊びに来たときと同じように、お風呂に入って、リビングでだらだら過ごしてる。
最近の直也の態度の理由がわかって、直也にはひたすら謝られた。僕だって、初めから知ってれば、直也に話しかけて苦しませるようなこと、しなかったのに。

<直也>
どこで朝を迎えるか、二人で話し合った。リビングのソファで、水を入れたバケツを置いて待つことにした。
桜の耐水機能は、加熱されると、ゴムが劣化してすぐに失われるそうだ。桜を水に突っ込めば、熱にもがき苦しむのを見ずにすむかもしれない。


<桜>
直也と一緒に、その時を待つ。体がわずかに痙攣する。緊張のせいだよ、まだ大丈夫だから。そんな顔をしないで。

<直也>
桜を腕に抱いて過ごす。いろいろなことを話す。桜が初めて店に来たときのこと、桜の前の主人のこと。オーナーの事が出ると、会話は気まずく途切れた。
時折、桜が震える。その度に俺は確認して、桜が首を振る。俺は桜の肩を持つ手に力が入る。


<桜>
やがて、時計が6時を指す。僕は、直也の肩に左手を回したまま、じっと待った。耳が痛いほどの静寂。直也が身じろぎして、ソファが軋む。
突然、僕の目の焦点が合わなくなる。気づいてすぐに直したけど、今度は頭がけだるい。僕の肩に掛かる、直也の手を握る。直也が振り向く。直也は目を見開き、顔色が変わる。僕、一目見てわかるほど危ないみたい。

なお…や……

 

続く