透明な絶望 (デスゲームもの)
透明な球体。
人の背丈を超える大きさの風船に向かって、全力疾走。
風船が弾み、俺は反動をそのままに反転、部屋の反対へ向かって走り出す。
俺とキルシュは、死のゲームに投げ込まれた。
ざっと見たところ、参加者は数十人ほどだった。
球形の風船。「ワクチン」と呼ばれるこの物体が、体育館ほどの空間にびっしり並べられていた。
この中を、ひたすらに走り回る。"動けなくなったら死"。自我を抜かれ、ぐったりとした廃人になる。
ブザーが鳴った瞬間から、俺たちの身体の自由は奪われた。
ゲーム開始から10分。
俺は、目の前のワクチンに向けて全力で突っ込む。ワクチンの向こうに、キルシュが居る。ワクチンと壁に挟まれた小さな隙間の中、震えるように動き続けているキルシュが!
「やめろおおおおおおおお!」
叫んでも身体の自由は利かない、止まれない!
俺とキルシュの、目が合った。
キルシュは、泣きながら微笑んだ。
「ああああああああああああああああああああああああ」
俺の身体は、全力でワクチンに体当たりした。
ワクチンが動き、キルシュの最後の隙間を奪う。
キルシュは動きがとれなくなる。
キルシュの身体の力が、すっと抜けた。
俺の身体は反対方向に走り出す。キルシュの最後を娶ることもできず、背を向けるしかなかった。
次にキルシュの元に来たとき、キルシュは変わり果てた姿となっていた。
キルシュの眼は虚ろに見開かれ、倒れるスペースもない中で、ワクチンに押されて揉まれ、首だけがガクガクと動いていた。
俺の身体は、キルシュに構うことなく、ワクチンに体当たりした。キルシュの首が揺り動いた。涙が止まらなかった。
結果、俺はゲームの終わりまで生き抜いた。
部屋の隅へ向かい、ワクチンの向こうのキルシュを見る。
ワクチンを退け、倒れかかるキルシュの身体を支えようと手を伸ばし、
そこで俺の意識は、途切れた。
ゲーム終了。すべてのレプリカントを停止。
レプリカント「ジン」も停止。
風船から解放されたレプリカント「キルシュ」は、「ジン」の腕をすり抜け、床に倒れた。
実験終了。現状を写真撮影により保全した後、撤収する。