hdnprgの日記

アンドロイド、ヒューマノイドを扱った小説を、思いつき次第公開します。諸事情により、他サイトでも投稿中@hdn_prg

【残虐な描写あり、メカバレ】通信遮断

一面の墨色。その中に、ちらほらと明かりがあった。それは、無骨な無線機器類のLEDランプの明かり。さらに、閉じた瞼の間から漏れる赤色の光。

部屋の扉が開けられ、男が入ってくる。男は、照明を灯した。薄汚れ、破れたジャケットを着た50がらみの男だ。部屋を見回す。

入り口から正面に見える窓は寒冷地らしく重厚な造りになっていて、叩きつける吹雪にビクともしない。ただ、外の暗闇と大雪を映していた。

部屋は無機質で、何の飾り気もない。入り口から左手には機器類が設置され、様々なケーブルが這い回っている。そんな無骨な装備の中に、異質な物体が置かれていた。
少年型ロボットの頭部だ。机の上にクッションが敷かれ、仰向けに置かれている。ロボットの白い猫っ毛が、クッションに広がっていた。

男が机の前に立つ。ロボットは既に目を覚ましていて、ロボットが持つルビー色のアイカメラと目が合う。ロボットは、緩やかに目礼した。

頭部のみで、身体は接続されていない。1か月ほど前、誤動作が相次いだ為に頭部のみを外され、キャビネットに仕舞われている。厳しい冬が終わるまでは、点検も修理もできないだろう。

ロボットの首の接続部からはケーブルが伸び、機器類と繋がれている。

白いクッションの上で、ロボットが語りかける。
「こんばんは、旦那様」
ロボットは口元にえくぼを浮かべ、半ば媚びるような柔らかい表情を作る。
対する男は、何の反応も見せない。ロボットが続ける。
「今からおよそ半時間前、19:04に無線通信が入っております。旦那様とご家族の安否を確認する内容です。返信をお願いいたします」
ロボットは伝達を終え、男を見つめたままゆっくりと唇を閉じる。

男はそれでも無言を保つ。手をジャケットで拭う。
男は、ロボットの頭部に手を伸ばす。ロボットの白い頭髪に指を突っ込み、髪の毛をかき回しながら何かを探す。
ロボットは状況を掴めず、
「あの、返答をお願いします…」
と話しかける。
クッションの上で仰向きだったロボットの頭部が、横向きに倒される。

やがて、男は、ロボットの頭部にある凹部を見つける。指を掛けると、力を込めて指を一気に押し込む。
ロボットの頭部カバーが外れ、電子部品がむき出しになった。男の目がギラリと輝き、口角が引きあがる。
外した頭部カバーを足下に投げ捨てる。

ロボットが、警告を発する。
「頭部カバーが外れています。感電の危険があり、非常に危険です」
男は、無言でロボットの中身を見つめている。
「安全のため、すぐにカバーを戻してください」
男の手が、ロボットの頭部の内部に向かう。ロボットの目からは死角になっていて、見えない。
「繰り返します。頭部カバーが外れています」
男の指が、コネクタに差し込まれた板状の部品を掴んだ。

「感電のピ  」
「キケェ  」
「ン  ガ  アァ  」
ロボットの声が止まり、ノイズが混じる。表情は硬く強ばり、眼を大きく見開いて、ガクガク痙攣している。
男は、手こずっていた。部品が半分抜けたまま、うまく外れない。大きく舌打ちする。
焦れた男は、ロボットの頭部を机からたたき落とす。そして、むき出しの内部を、革靴で思い切り踏んづけた。樹脂の板が、荷重に耐え切れず破断する。

ロボットの白い髪から、黒い煙が上がる。辺りに焦げたにおいが立ちこめる。
男は、ロボットが壊れたことを確認すると、部屋を去った。

 

 

シャイニング 特別版 コンチネンタル・バージョン [DVD]

【小説】晒し者(下)

作業台の上に、人型のロボットが仰向けに寝かされている。その身体は、泥と油にまみれている。その上、背中はばっさりと切り開かれて、内部の部品は無惨に破壊され、焼き付いていた。

作業代の傍らに、一人の少女がたっている。少女は、ぼろぼろの少年型ロボットを、涙をたたえた瞳で見つめていた。

少女は、分厚いゴム手袋をつけた腕を、ロボットに伸ばす。後頭部に指を入れ、頭を起こすようにして両手で包み込む。耳たぶ裏のへこみに両の親指をあてがい、同時に押し込むと、首のジョイントが外れる。そのまま、ロボットの頭部を持ち上げた。

そして、作業台の片隅に厚く積み上げた毛布の上に、そっと下ろす。
少女は、息をゆっくりと吐き、止めた。ロボットの頭部を手に取ると、ジョイント部を上にして置き直す。震える手でルーペを取り出すと、金属が剥き出しになった接続部に近づけていく。
少女の顔が、ぱっと赤くなる。ふー、と長く息を吐きながら、顔を起こした。

ロボットのジョイント部に設けられた小さな窓に、「安全」と表示が出ていた。

その後、ぼろ布で、少年型ロボットの頭についた汚れをぬぐい取っていく。丁寧に、どこまでも丁寧に。

 

自分の力が足りないために、少年型ロボットは外部のプログラムに乗っ取られて我を忘れ、広場に躍り出てしまった。

少女は、そう考えていた。

気がついたときには、すでに手遅れだった。
少年の背中は無惨に切り開かれていた。
それだけではなく、少年の命そのものとも言える頭部の記憶装置も、じわじわと焼き潰されようとしていた。

少女は、自ら少年に止めを差すことにした。
大きな衝撃により素早く止めることで、頭部保護機能が働くはず。その一縷の望みに賭けた。

そして、少女は賭けに勝ったのだ。

【小説】晒し者(上) (残酷な描写有り、メカバレ)

住宅街の中にある、僅かな空き地。
膝丈ほどの草が茂る広場の中央に、人の高さほどの白い塔が立っている。

塔の周りで、十人程の人影が、固まって蠢いている。
皆、痛々しい姿を晒している。
顔が半分抉れていたり、右肩から先が欠けていたり、胸元の皮膚を大きく削れていたり。
滑らかで美しい皮膚の下からは、色鮮やかなケーブルや銀色の骨格が露わとなり、褐色の潤滑液が溢れている。

彼らは、全員が同じように、眼を大きく見開き、常に塔だけを見つめている。
押し退けへし合い、争って塔にすがりついている。

 

一方で、空き地の周囲には人だかりができていた。人混みの中からたくさんの携帯電話が突き出され、写真を撮る音が止まない。
人垣の内側にはバットや金属パイプ等を持った男たちが並び、目を光らせていた。

突然、叫び声が上がり、人の群が割れる。人垣の間から、学生服を身につけた少年が飛び出してくる。少年の日に焼けた顔には表情が無く、その瞳は空き地の中にある塔に縛り付けられている。
見張っていた男が、少年の前に立ちふさがる。男は、一心不乱に前に進もうとする少年の頭を鷲掴みにしてつり上げ、少年の首元に端末を押しつける。
もがき暴れる少年の肩から、エナメルバックが滑り落ちる。やがて、男が持つ端末の液晶に、数字の羅列が映し出される。

男は少年を柵の内側に放り投げる。乱暴に転がされた少年は、それでもすぐに立ち上がり、塔に顔を向ける。
その瞬間、男は少年の背中に鉄パイプを叩きつける。顔面から草地に倒れ込む少年。少年の上に立ち、腰から短刀を取り出す男。震えながら、四つん這いになる少年。少年の背中に、短刀を突き立てる男。

バチン。
爆ぜるような音が、広場に響く。
少年の身体から力が抜け、草地に沈む。

男は、少年の上に屈み込んだ。

がああアガぁぁぁ

ノイズ混じりの、苦い悲鳴が響く。
男が立ち上がる。その手には、油まみれの短刀が握られている。
そして、草地で痙攣する少年の身体は、腰の辺りまで無惨に切り裂かれている。

ケーブルや駆動装置が露わになった背中から、白煙が吹き出る。頭を上げただけで、口から油を吐き出す。
それでも、少年は草を掴み、足を掻いて、前に進もうとする。
男は、草むらの中を這いずって進んでいく少年を冷たく見やると、人垣の前に戻っていく。

人垣、その最前列には、先ほどの少年と同じ制服を着た少女が居る。少女の足には力が入らず、地べたに座り込んでいる。

少女は、ただ呆然と、少年が傷つけられていく様を見ていた。少年が這いずって進みだした頃には、少女は手のひらを固く握りしめ、ぼろぼろと涙を流していた。

 

少年の顔は、泥や油で汚れ、黒い。頭はがくがくと痙攣し、しかも少しずつ激しくなっていく。
そんな、ボロボロになったを引きずる少年のすぐ脇で、泥が跳ねる。拳大の石が、草地に転がる。

よくも騙したわね、このガラクタが……

少女が次に投げた石は、切り裂かれた少年の背中に当たる。少年が吐き出す煙が黒く染まり、ぽすん、と音を立てると、草むらに突っ伏して動かなくなる。

人垣から生えた、無表情なカメラのレンズたち。彼らは、倒れた少年の姿を舐め尽くす。その後、泣きながら立ち尽くす少女を容赦なく記録した。


少女は動けなかった。

半ば草むらに埋もれた少年は、少女に顔を向けていた。少年は、何故か、安らかそうに笑みを浮かべていた。

秘密の乗り移り歩き

大都市の地下街、十字路の真ん中。
四方に伸びる通路の両側はすべて商店となっていて、店員が忙しく動き回っている。
それらの通路に向けて、絶え間なく人が行き交う広場の中央には、巨大なガラスのオブジェが置かれている。

 

スーツ姿の女性ロボットと、私は、並んでオブジェの前に立つ。
「次はどこに行けばいいんだい?」
私が問いかけると、女性は腕をすらりと上げ、右を指す。
「あちらへ進んで」
私が歩き出すと、女性も横に並び歩き出す。
と、突然、女性は立ち止まった。私は構わずに先へ進む。
私がちらりと後ろを見ると、広場に戻っていく女性の後ろ姿があった。

 

「不便じゃないか?」
私は、独り言のように声を出した。
「そうでもないわ」
私の前を歩いている、茶髪の少女が答えた。
少女は、歩みを緩めて、私の横に並んだ。
首元に埋め込まれたタグが、彼女もまたロボットであることを示している。
少女の首からは、洋服店の名札が下がっている。私は、少女に
「店番はどうしたんだい?」と問う。少女は、名札を指で弄びながら、
「さあ、ちょっと休憩くらい良いじゃない」
と、軽く答える。私は、くるくる回される名札を見ながら、気の毒に、と思った。

 

正面に、地下通路いっぱいに広がった学生の集団が現れた。やむなく通路の端に寄った通行人たちが、もの言いたげな視線を向けるが、子どもたちは気づく気配がない。私たちも、2人並んでは通れない。少女は軽く舌打ちすると、肩を差し入れ、私の前に入った。

と、少女が急に立ち止まった。私は止まれず、少女に当たってしまう。少女は私が当たっても、数歩ふらついただけで、視線さえ向けてこない。
私は少女を無理やり避けると、少女に構わずに先に進んだ。

 

「タイミングってものがあるだろう」
私は振り返って、駆け足で店に戻る少女を見ながら毒づいた。
「しょうがないわ。そこまで操作できないんだから」
学生服を着た、丸坊主の少年が答える。
私は、少年を見て、驚きのあまり固まった。少年は、そんな私を見ながら、にまりと口角を上げると、
「何よ、そんなに驚いて。男型を使うのは初めてじゃないでしょう?」
と言った。何も言えず、つい、ため息が出てしまう。私は、頭を軽く振り、気を取り直して、
「で、次はどこに行くんだ?」
と聞いた。

 

逃走

白髪の少女と、同じく白髪の少年。

同じ姿をした、無表情の少年少女に囲まれている。
全員の手には、金色の短槍が握られている。

囲まれた少年と少女は、短槍を操り、襲いかかってくる刺客をひるませ、倒す。
背中合わせで、互いが互いを守る。

少女の正面で、包囲に穴が出来る。
少女は、少年の手を取ると、素早く包囲を突破する。
手を取り合ったまま、通路を駆ける。

少女たちは、通路の曲がり角にさしかかる。横から明るい光が差し、少女たちを照らす。
直ぐ目の前に外への出口がある。

向かおうとする少年は、しかし、突然腕を強く引かれた。手をつないでいた少女は、胸を金色の槍で貫かれ、壁に叩きつけられていた。
少女は、少年をにらみ付け、
「行け!」
と叫んだ。

少年は、出口に向き直り歩きだした。

「…ジ、行げェッ!…ガガ」
少女がもう一度声を振り絞る。

少年は、弾かれるように走り出した。
外の世界は、もう目の前にあった。

が、突然足から力が抜ける。駆けた勢いのまま、通路にもんどり打って転がる。顔面を床に叩きつけて、止まった。

少年の付けている首輪が鋭く点滅している。少年の頭の中でピ、ピ、と電子音が響く。その度に、足の先、ふくらはぎ、太もも、と身体の自由が利かなくなり、力が抜けていく。
少年は、それでも諦めなかった。まだ動く腕を使って身体を持ち上げ、前に進んでいく。

通路の外に出る直前、少年の身体は大きく傾いだ。少年は、腕を伸ばせるだけ前にのばし、指の先で床を掻いた。
すると、手のひらが敷居を越えて、外の世界に出た。
それを必死に求めていた少年の瞳には、しかし、すでに光が無かった。

少年の背後で倒れている少女には、まだ意識があった。少年が動かなくなるまでの一部始終を、ぼんやりした視界の中で眺めていた。

やがて、外から一つの人影が現れた。少女と同じ姿をしていた。

入り口に倒れ込んだ少年を一瞥する。その少女は、一切表情を変えず、少年が伸ばした腕を蹴りとばした。
腕は、力無く舞い、少年の頭の上に乗った。手のひらが、少年の耳をたたいて、バチリと音を立てた。

後ろで、瀕死の少女が、全てを見ていた。

【小説】ヒューマノイドを新調するとき

少年型ロボットが、パソコンに接続されている。同じパソコンに、もう一人、少年型のロボットが接続されている。
二人は、そろって膝を抱え、体育座り。目を閉じて、眠っている。

ロボットが古くなってきたから、新しいロボットを買ってきた。新しいロボットに、データをコピーしている。

古いロボットは、コピーがきちんと出来たと確認できたら、処分する予定だ。

二体のロボットと、パソコンが動く音以外は、なにも聞こえない。静かな時間。

ポロン。

パソコンから、コピー終了のアラームが鳴った。
二人に繋がったケーブルを外す。

さて、スイッチを入れてみるか。
新しいロボットの首筋に手を入れ、カチリと押し込む。

茶色の短髪がふわりと舞い上がり、かすかに木のにおいがする。ゆっくりと、長いまつげが持ち上がり、明るい緑色の瞳が覗く。

すっと、穏やかに笑みを浮かべ、
「おはようございます、マスター」
こちらも、笑顔になる。

私の名前、ここの住所、私が起きる時間や家事のことまで、一通り聞いてみる。少年型のロボットは、なめらかにすべて正しく答えた。

よし、データは大丈夫。

私の視点は、古いロボットに向かった。

膝を抱え、丸くなったままのロボット。
私は、なんとなしに近づき、髪の毛に指を入れていた。
新しいロボットが、とことこと付いてきて、のぞき込んでいる。

コチリ。

あ。

うっかり、スイッチを、入れてしまった。

数分後。
いつも見慣れた、青い瞳が、ものすごく困惑した視線を向けてくる。

新しいロボットと、古いロボット。
二人の少年に囲まれてしまった。

もう。
"古いロボットから、新しいロボットに移るだけ。"
では済まない。
新しい少年とは違う意識を持つ、馴染みの子を、殺すか、どうか。

青い瞳の少年が、おそるおそる口を開く。
「…どうするの?」

どうしよう…

手伝いロボット おせんたく

少年が、洗濯機のふたを開ける。
洗い物を、かごから洗濯機に移す。
痛みそうな服は、体に栄に畳んでネットに入れる。

洗濯物をいれ終わる。少年は、ぱんぱんと手をたたき、糸くずを落とす。
やおら、洗濯機によじ登り、洗濯そうの上に腹ばいに乗ってしまう。じーっと、顔の下の洗濯物をみつめている少年。口を、もごもごさせている。
少年が、口をぱくっと開くと、ねっとりとした透明な液体が、一気に流れ出てきた。いい香りが辺りに漂う。
舌べらで中に残った液体を拭い、口を大きく開いて舌を突き出す。舌べらから、液体がながーく糸を引く。作業着の袖で口を、ぐっと拭う。

少年は、洗濯機から降り、スイッチをぽちりと入れた。

 

洗い場から、立ち去る少年。

後ろを振り返ると、階段のところどころに、小さな青い水たまり。
ぽたぽたと音がする。
「あ」
着ている服が、青くじっとりと濡れている。
めくり上げると、お腹の関節から洗剤がもれていた。

「あーあ…」
そうじしなきゃ。