hdnprgの日記

アンドロイド、ヒューマノイドを扱った小説を、思いつき次第公開します。諸事情により、他サイトでも投稿中@hdn_prg

【小説】晒し者(上) (残酷な描写有り、メカバレ)

住宅街の中にある、僅かな空き地。
膝丈ほどの草が茂る広場の中央に、人の高さほどの白い塔が立っている。

塔の周りで、十人程の人影が、固まって蠢いている。
皆、痛々しい姿を晒している。
顔が半分抉れていたり、右肩から先が欠けていたり、胸元の皮膚を大きく削れていたり。
滑らかで美しい皮膚の下からは、色鮮やかなケーブルや銀色の骨格が露わとなり、褐色の潤滑液が溢れている。

彼らは、全員が同じように、眼を大きく見開き、常に塔だけを見つめている。
押し退けへし合い、争って塔にすがりついている。

 

一方で、空き地の周囲には人だかりができていた。人混みの中からたくさんの携帯電話が突き出され、写真を撮る音が止まない。
人垣の内側にはバットや金属パイプ等を持った男たちが並び、目を光らせていた。

突然、叫び声が上がり、人の群が割れる。人垣の間から、学生服を身につけた少年が飛び出してくる。少年の日に焼けた顔には表情が無く、その瞳は空き地の中にある塔に縛り付けられている。
見張っていた男が、少年の前に立ちふさがる。男は、一心不乱に前に進もうとする少年の頭を鷲掴みにしてつり上げ、少年の首元に端末を押しつける。
もがき暴れる少年の肩から、エナメルバックが滑り落ちる。やがて、男が持つ端末の液晶に、数字の羅列が映し出される。

男は少年を柵の内側に放り投げる。乱暴に転がされた少年は、それでもすぐに立ち上がり、塔に顔を向ける。
その瞬間、男は少年の背中に鉄パイプを叩きつける。顔面から草地に倒れ込む少年。少年の上に立ち、腰から短刀を取り出す男。震えながら、四つん這いになる少年。少年の背中に、短刀を突き立てる男。

バチン。
爆ぜるような音が、広場に響く。
少年の身体から力が抜け、草地に沈む。

男は、少年の上に屈み込んだ。

がああアガぁぁぁ

ノイズ混じりの、苦い悲鳴が響く。
男が立ち上がる。その手には、油まみれの短刀が握られている。
そして、草地で痙攣する少年の身体は、腰の辺りまで無惨に切り裂かれている。

ケーブルや駆動装置が露わになった背中から、白煙が吹き出る。頭を上げただけで、口から油を吐き出す。
それでも、少年は草を掴み、足を掻いて、前に進もうとする。
男は、草むらの中を這いずって進んでいく少年を冷たく見やると、人垣の前に戻っていく。

人垣、その最前列には、先ほどの少年と同じ制服を着た少女が居る。少女の足には力が入らず、地べたに座り込んでいる。

少女は、ただ呆然と、少年が傷つけられていく様を見ていた。少年が這いずって進みだした頃には、少女は手のひらを固く握りしめ、ぼろぼろと涙を流していた。

 

少年の顔は、泥や油で汚れ、黒い。頭はがくがくと痙攣し、しかも少しずつ激しくなっていく。
そんな、ボロボロになったを引きずる少年のすぐ脇で、泥が跳ねる。拳大の石が、草地に転がる。

よくも騙したわね、このガラクタが……

少女が次に投げた石は、切り裂かれた少年の背中に当たる。少年が吐き出す煙が黒く染まり、ぽすん、と音を立てると、草むらに突っ伏して動かなくなる。

人垣から生えた、無表情なカメラのレンズたち。彼らは、倒れた少年の姿を舐め尽くす。その後、泣きながら立ち尽くす少女を容赦なく記録した。


少女は動けなかった。

半ば草むらに埋もれた少年は、少女に顔を向けていた。少年は、何故か、安らかそうに笑みを浮かべていた。