【小説】晒し者(下)
作業台の上に、人型のロボットが仰向けに寝かされている。その身体は、泥と油にまみれている。その上、背中はばっさりと切り開かれて、内部の部品は無惨に破壊され、焼き付いていた。
作業代の傍らに、一人の少女がたっている。少女は、ぼろぼろの少年型ロボットを、涙をたたえた瞳で見つめていた。
少女は、分厚いゴム手袋をつけた腕を、ロボットに伸ばす。後頭部に指を入れ、頭を起こすようにして両手で包み込む。耳たぶ裏のへこみに両の親指をあてがい、同時に押し込むと、首のジョイントが外れる。そのまま、ロボットの頭部を持ち上げた。
そして、作業台の片隅に厚く積み上げた毛布の上に、そっと下ろす。
少女は、息をゆっくりと吐き、止めた。ロボットの頭部を手に取ると、ジョイント部を上にして置き直す。震える手でルーペを取り出すと、金属が剥き出しになった接続部に近づけていく。
少女の顔が、ぱっと赤くなる。ふー、と長く息を吐きながら、顔を起こした。
ロボットのジョイント部に設けられた小さな窓に、「安全」と表示が出ていた。
その後、ぼろ布で、少年型ロボットの頭についた汚れをぬぐい取っていく。丁寧に、どこまでも丁寧に。
自分の力が足りないために、少年型ロボットは外部のプログラムに乗っ取られて我を忘れ、広場に躍り出てしまった。
少女は、そう考えていた。
気がついたときには、すでに手遅れだった。
少年の背中は無惨に切り開かれていた。
それだけではなく、少年の命そのものとも言える頭部の記憶装置も、じわじわと焼き潰されようとしていた。
少女は、自ら少年に止めを差すことにした。
大きな衝撃により素早く止めることで、頭部保護機能が働くはず。その一縷の望みに賭けた。
そして、少女は賭けに勝ったのだ。