【小説】トラップロボットの作製 (1) (着せ替え、改造)
少女型ロボットの身なりを整え、プログラムを書き換えるお話です。
書き換えシーンは(2)に入ります。
-----------------------------
目覚めても、暗い。この部屋には窓が無い。
電気をつけて時計を見ると、日の出前の時間だ。
俺は飛び起き、顔を洗って作業着に着替えると、
冷蔵庫からペットボトルを取り出し、デスクの前に座った。
ここは、俺の仮宿 兼 工房。町外れの工場の中、機械部品倉庫の2階だ。
仕事は、ロボットの整備と改造。でも、カタギでやる仕事じゃない。
俺は、デスクに設置した端末から1階倉庫の在庫データを呼び出す。
倉庫には、ロボットが可動状態で格納されている。
ジャンク品、型落ち品を安く調達して、組み上げ、整備する。俺の仲間の仕事だ。
俺は、端末から、遠隔操作でロボットを起動する。
ロボットは、自律制御で部屋まで来る。
ロボットが部屋の呼び鈴を押したら、俺は端末で扉のロックを解除する。
扉の向こうから、女性型のロボットが現れた。
青いカメラアイがこちらを見ている。
頭には、白い大きなビニール袋をかぶっている。髪の毛を汚れから保護する為だ。
身体も、ポンチョ型のビニールカバーですっぽりと覆われている。
俺は、手招きしてロボットを部屋に入れる。
ロボットが離れると、自動で扉が閉まる。俺が、端末で扉をロックする
ロボットが、俺の前に立つ。真新しい塗料の臭いが鼻につく。
「おはようございます」ロボットが、ふわりと笑みを浮かべる。
「はいおはよう」俺は、淡々と答える。
「まず、身体のカバーを脱いじゃって。頭はそのままでいいよ」俺は、椅子から立ち上がり、棚に向かいながらロボットに命じる。
「はい」ロボットは、ポンチョを脱いだ。
俺は、棚からぼろ布と洗剤のボトルを取り出す。
振り返ってロボットの身体を見た。
案の定、ポンチョを脱いであらわになったロボットの身体には、いたるところに油汚れが残っていた。
「あーやっぱり。今からこれで身体を綺麗にするんだ」俺は、ぼろ布に洗剤を噴きつけながら声をかける。
「はい」ロボットは、ポンチョを畳みながら答えた。
「椅子に座って」俺は、丸い回転椅子を棚の前から引いてきて、ロボットに差し出した。
俺は、椅子に腰掛けたロボットの前に膝立ちになる。
「よし、じゃあ、眼を閉じて」
俺は、ロボットの顔の形に合わせて布で拭い、汚れを落としていく。油汚れは落ちにくく、俺が拭く布の圧力に引っ張られて、ロボットの顔が揺れ動く。「顎の下も拭くよ。顔上げて」「…」俺は、ロボットの顎を手で包み込み、顎の下、頭部と首の関節部、首筋、耳周りにも布を這わせて、汚れを丁寧に落とす。
ロボットの身体を掴み、椅子に座らせたまま回転させて、ロボットの背面が見えるようにする。ロボットの頭を俺の手でそっと押して下げさせ、ロボットの髪を包むビニール袋を退かすと、うなじが見える。俺は、ロボットのうなじから背中までを拭き上げる。ついでに、うなじに刻印された型番を紙にメモする。
その後、再びロボットを回転させ、ロボットと正面で向き合う。
「眼を大きく開けて。眼の調子を見るよ。」
「はい」ロボットの眼をのぞき込み、傷の様子を観察する。細かい傷が付いているが、問題ないだろう。
「それじゃあ、身体の汚れは自分で落としてね。終わったら俺が来るまでここで待ってて」布と洗剤を、ロボットに手渡す。
「分かりました」ロボットが立ち上がり、身体を拭き始める。
俺はデスクに移る。端末に、メモしたロボットの型番を入力し、情報を引き出す。
「IMM-8型。前に作った奴をそのまま使えるか。えーと…」
自作の書き換えプログラムを探し出し、仕様書を確認。
「よし、行ける。今回は楽だ」
仕様書を閉じる。書き換えプログラムを立ち上げ、準備を整えて、ペットボトルの水を口に含んで、飲み込んだ。デスクから離れる。
ロボットは、身体を拭き終わってちょこんと座って待っていた。所在なさげだった表情が、俺が戻ってきたのを見て、パッと明るくなる。俺は、ロボットの表情を見て浮かんだ感情を押し殺し、強いて何も考えないように努める。
いつもこの瞬間、俺はこの仕事に向いてないんじゃないかと考えてしまう。
「よし、綺麗になったな」
「ありがとうございます」
いい笑顔だ。クソ。