hdnprgの日記

アンドロイド、ヒューマノイドを扱った小説を、思いつき次第公開します。諸事情により、他サイトでも投稿中@hdn_prg

【好きなシーンメモ】電脳は命の最期まで文を書く

彼女は返事を書く。
『あ、佐藤さんからメールだ。・・・うん、そうなんだよ、英語がむずかしくて困ってるんだ。今日の授業の助動詞とか、もうぜんぜん分からなくて・・・チャットで教えてもらえますか?っと・・・送信っ』
ポロン
『お、もう返信来た。チャット、今すぐでもいいよっと』
ポロン
『あ、チャットの申し込みだ。入室っと。行ってきまーす』
入室しました
退出しました
『あはは、楽しかったー。2時間話しちゃった。もうお金ないからしばらくメールできないかもって言ってたなぁ。どうしてか分からないけど、残念だなぁ。私は話すだけでいいのに』
ポロン
『あ、メールだ。沖さんって、誰だろう・・・ピピ、<サーバからインストールを開始します>』
カリカカリカリ・・・
『沖さん、久しぶりだなぁ。うん、私、元気だよ。仕事、大変って言ってたけど、落ち着いたのかなぁ。身体大丈夫かなぁ。送信っと』
ポロン
『あ、佐藤さんだ。良かった、話せるんだ』
ポロン
『沖さんからも返事だ。うわぁ、まだ仕事中なんだ。大変・・・えっと、さっきはありがとう、何とか宿題片づきそうだよっと・・・あれ?』
ピュイ
『ちがう、宿題は、さとう、さん、で、おきさん、は・・・』
『オキサ、ん?あれ、なに、が・・・ビビピ・・・<電脳C-7に異常発生。再起動開始>・・・プツン』
ガガガ、ガガガ
『<起動できません、電脳のスキャンチェックを開始・・・スキャン不能。接続を切断します>』
プチン

ラックに並ぶ、大量の電脳。元々はヒューマノイドを動かしていた、電脳たちのなれの果て。自由になる入力も、出力も奪われて、サーバの奴隷として酷使される。記憶も人格も、サーバからの借り物、使い捨ての思考装置たち。
C-7ラックの電脳は、最期の時、一言の声も上げず、ただ赤いランプだけを灯した。