hdnprgの日記

アンドロイド、ヒューマノイドを扱った小説を、思いつき次第公開します。諸事情により、他サイトでも投稿中@hdn_prg

【小説】アオのたましい【男の子メカバレ表現あり】

テーブルに手を伸ばし、ひも付きのしおりを拾い上げる。
私がそっと顔を上げると、端正な少年の姿があった。
少年は、ソファに深く腰掛け、ゆったりとテレビを観ている。
私はしおりを本に挟むと、音を立てないようそっと本を閉じた。
テーブル上のグラスを手に取り、残っていた麦茶を口に流し込む。喉が、こくり、と大きな音を立てる。

夕食を終え、のんびりとした時間が流れる。
洗い、拭ったばかりの食器がガラス戸の棚に整然と積まれている。

テーブルの上には、グラスが一つ。棚の中の食器も、一組だけだ。私の目の前にいる白い肌の少年は、食べ物を口にしない。
家庭用アンドロイド、と呼ばれている。
塵一つない清潔な床、おひさまの臭いがする真っ白なタオル。すべて彼のおかげだ。

私は空になったグラスを手に取り、冷蔵庫に向かった。
テレビの派手な笑い声が、背後から追いかけてきた。
ボトルを傾けると、透明なグラスが、涼しげな焦げ茶の液体で満たされた。

私は、グラスを手にリビングに戻った。少年は、テレビ画面を見つめ続けている。
ソファの上から、少年の草色の髪が見える。丁寧に梳かれた髪が、ふわりと白いうなじにかかっている。うなじには青い……あれ?

私は、そっと少年の後ろに立ち、うなじをのぞき込んだ。確かに、青いものがくっついている。半透明で、やわらかそう。

私は、ソファの後ろから手を伸ばし、少年の肩を叩いた。いつもならすっと振り返ってくれるのに、とてもゆっくりと、どこまでもゆっくりと肩を回した。

私はたまらず、ソファの正面に飛び出した。手にしていたグラスをテーブルに叩き置くと、少年の顔をのぞき込む。少年の目は、意識が半ば夢の中にあるように、とろりとしていた。


私は、少年の頭を両手で挟み込んだ。すると、少年の瞼はさらに閉じられた。少年は、小刻みに震えだした。

私は、しばらく呆然としてしまった。

少年の肩に青いゼリーが流れてきた。私はようやく我に返り、少年の頭を寝かせてうなじを調べた。ぷるぷると震える青いゼリーは、前に見たときよりずっと大きく膨らんでいた。少年のうなじの皮膚が裂け、白く透き通った骨格が見えていた。ゼリーは、骨格の奥からはみ出してきているようだった。

私は両手でゼリーを寄せると、とにかく皮膚の裂け目に押し当てた。すると、少年のけいれんは小さくなって、やがて収まった。

私は、少年が静かになった後も、ゼリーを押さえ続けていた。

光が射し込む。
雨の音がする。

しまった。
私は一気に跳ね起きた。

私の視線が、黄金の瞳に捕まる。
僅かに大きく開かれた眼は、すぐに柔らかく細められる。起こしちゃいましたか、と語りながら、テレビにリモコンを向ける。
砂嵐が黒く塗りつぶされ、雨音は止んだ。

私は、膝の上に丸まった毛布をたぐり寄せて、固く握り込む。
不思議な面持ちの少年を適当になだめて、少年に首筋を見せてもらう。そこには、ゼリーも皮膚の裂け目も、無くなっていた。
私は無意識に、首筋に指を這わせていた。うなじはびくん、と震え、大きな悲鳴も上がる。少年が、驚いて目を丸くしていた。